贅沢貧乏

贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

千円は望みが小さいと言う人があったら、魔利は答えるだろう。それ以上の本当に金を使ってやる贅沢には空想と想像の歓びがない。と

世を挙げて恋愛時代で、若い女はすべて愛されたい欲望を持っているが、愛されたいと思ったら、ブリーチより、アイラインより、人を羨んだり憎んだりすることを止めた方がよさそうである。そういうものが出ると女の顔に、ぞっとするような悪相が生れる

道徳と仲よくしなくても美は美であって、いつでも最大のものだと、マリアは信じている。美はどんなものより大きなものだから、宗教にも、悪徳にもどっちにも、関係がない。理論にも思想にも関係がない、と思っている

だいたい贅沢というのは高価なものを持っていることではなくて、贅沢な精神を持っていることである。容れものの着物や車より、中身の人間が贅沢でなくては駄目である。指環かなにかを落したり盗られたりしても醜い慌てかたや口惜しがり方はしないのが本ものである。我慢してしないのではなくて、心持がゆったりしているから呑気な感じなのである

森茉莉さんは驚くほど自分を客観的に見、そしてそれを文章化している人だと思う。のです。